装置を使っていかに効率よく
安全に製品を生み出すか、
エンジニアの腕の見せどころ
大学では機械工学を学んでいました。もともとは車が好きだったので自動車メーカーへの就職を考えていました。就職活動を通じてさまざまな企業の社員さんの話を聞く中で、「会社の規模」が自分の仕事の裁量権や範囲に影響すると思うようになりました。自分が20万人規模のメーカーに入社しても、おそらく携われるのは自動車の部品の一つの設計になるだろう。それはそれでもちろんやりがいのある仕事なのですが、自分自身は全体に関わる仕事をしたいと感じていることに気付きました。もともと地元が四日市で、小さな頃から大きくてかっこいいコンビナートを見て育ったことも影響していると思います。コスモの製油所見学などをする中で、数千人という規模ながら大きくてさまざまな種類の機械を扱っていることを知り、1人あたりの仕事のスケールが大きいという理由でコスモへの入社を決めました。
コスモでの保全の仕事を志望して入社したので、配属も製油所での工務を希望しました。工務の仕事は、主に機械のメンテナンス・保全です。例えば車やパソコンであれば、製品ごとに機能やデザインの違いがありその差別化がビジネスの肝になります。しかし、エネルギー会社の場合、例えばガソリンはどこで買ってもほとんど違いがありません。だからこそ、いかに効率よく安全にガソリンを作りだすかということがエンジニアとしての腕の見せどころです。製油所での工務の仕事は日々機械を管理しながら、どの機械をどのタイミングで点検・修理していくかということを計画立て、実行していく仕事です。EXCELや保全システムの点検計画表にチェックを一つつけるだけで、数百万円の工事が動きます。それが積み重なって、製油所一つで年間数十億円の予算で工事が実行されます。入社する前から想像していたとは言え、会社のお金を投資するという大きな判断に関わる仕事の責任の重さを改めて感じました。
大切なのは、技術的判断をベースにした
コミュニケーション
入社してから4年間ずつ、2つの製油所で工務の仕事をしていました。製油所での仕事として自分がやりがいを感じる瞬間は大きく2つありました。1つは4年に1回のTAと呼ばれる製油所の定期整備です。2年前から準備を開始して、点検の計画を立て予算をとり、さまざまな協力会社さんに工事発注をします。工事の期間は約1ヶ月。その間、装置を止めなければいけません。当然、装置が止まっていれば生産ができないので、工事の期間をできるだけ短くすること、延ばさないということが命題となります。工事期間に入ってからも、毎日何かしら点検・確認をしなければいけないことが出てくるので、それをスピーディーに判断しながら工事を進めていきます。次のTAまでの4年間装置が無事に運転できるかどうかを考えながら、工事を終わらせることが1つのゴール。そして、実際に4年間無事に装置が動いていることを確認することが次のゴールです。経験を積むにつれてTAの際に任される範囲も広くなり、より大きな挑戦が待っています。自分の成長を確かめる機会でもあり、製油所の大切な30日と4年間を任される機会でもあります。それを乗り越えた時の達成感は忘れられません。
もう一つやりがいを感じる瞬間は日々の仕事にあります。装置の運転を担当されているオペレーターの方とのやりとりの中で、「この装置から聞こえる異音は大丈夫だろうか」などの相談をもらいます。その一つ一つに対して、「これはすぐに直しましょう」「これはこういう根拠から大丈夫です」とお伝えしていきます。一つ一つ、きちんと対応することを積み重ねることで、「萩に相談してよかった」「萩が言うなら安心だ」という言葉をもらえるようになりました。他分野のスペシャリストたちから、信頼してもらえるということ。部署は違っても、製油所で一緒に働く人たちと「仲間」としての一体感を感じられること。それが自分にとっての大きなやりがいでした。
製油所での工務部門の仕事を通じて感じたことは、コミュニケーションの重要性でした。もちろんベースにあるのは装置に関する技術的判断なのですが、その上で関係するあらゆる人たちとのコミュニケーションが工務の仕事においては非常に重要です。根拠となる事実を基に説明し理解してもらう。その積み重ねが信頼になり、信頼は資産となってあらゆる業務の効率を高め、結果安全安心を生み出す。工務という仕事は機械に向き合う以上に、人と向き合う仕事だと思います。
本社部門の工務部として
求められる経営視点
2つの製油所を経験した後、本社の工務部に異動しました。今度は立場が変わって、各製油所から提出される修理や工事の要請に対して必要かどうかを判断していく。各製油所から数十億、合計で数百億の予算に対して、必要可否を判断していくという仕事になります。また、どこかの製油所で何らかのトラブルが起きた場合、他の製油所でも同じことが起きる可能性がないか、先回りで確認し、保全の方針を固めて実行に向けて動いていくという役割も担います。
工事の予算でいくと、製油所で経験した立場とは全く逆の立場です。製油所からの申請に対して、本当に今必要かということを判断する立場です。エネルギー会社として生み出している利益のうち、非常に大きな割合のお金を、装置の効率性・安全性に投資していきます。自分が製油所にいた時であれば「必要」と思った判断も、本社工務部という立場になれば見方が変わることも多くありました。現場と本社は敵対する関係では決してありませんが、立場の違いによる意見の相違が存在することは必然です。「製油所単体・会社全体」「短期・中長期」という視界の違いを認識しながら、何を優先していくかを判断していく仕事です。各製油所との調整を経て、今度は工務部として経営側に説明をしていきます。社長や役員陣と直接やりとりをしながら、経営判断としての意思決定プロセスを間近で見ることになります。そこには、「会社全体」「中長期」を見据えた判断もありますし、製油所で働く人一人ひとりの安全ややりがいを見守る判断もあります。非常に貴重な経験を積むことができたと思います。
在るものを活かす「保全」という仕事
本社工務部を経て、2022年4月からは千葉製油所の保全戦略課長として働きます。今度はライン長として製油所の工務の仕事と約10名のメンバーのマネジメントを担う立場です。自分が経験してきた「製油所」「本社」それぞれの立場から見た保全という仕事の責任や醍醐味をメンバーに味わってもらえるように、メンバーマネジメント・チームビルディングに注力したいと思います。
保全の仕事というのはコスモに限らず、今後の社会において重要性が増していく仕事だと思います。例えば新幹線のトンネル、例えば高速道路、例えば洋上風力、数えればきりがありません。造られたもの、その価値をまさに保全していく仕事です。造り続けることも大切ですが、在るものを活かしていくことが求められる時代へと変化していく中で、保全の仕事が果たす役割は大きくなっていきます。製油所、本社、そして再び製油所へと立場が変わる中で培った「視点」を大切に、ブレない判断ができるリーダーを目指して、仕事を続けていきたいと思います。